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 冷水希三子さんと、村の食・人を訪ねて【後篇】

季節の素材を生かしたシンプルかつ美しい料理で人気を集める、料理家・フードコーディネーターの冷水希三子さん。「インスピレーションの源は、旅」という冷水さんを村にお招きし、食材の作り手や郷土料理を語り継ぐ人を訪ねた2日間は、私たちにとっても新たな出会いと発見がいっぱい。洗練された美意識の中に、どこか大地に根ざした力強さや骨太さを感じさせる冷水さんスタイルの秘密も、ちょっぴり見えた気がしました。

 冷水希三子さん(料理家)

 奈良県生まれ。飲食店や旅館での勤務を経て、フードコーディネーターとして独立。料理にまつわるコーディネート、スタイリング、レシピ制作を中心に、書籍、雑誌、広告などで多彩に活躍中。

快晴の朝、散歩がてら山の恵みをいただきに

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翌日も爽やかな快晴。辺りには小鳥のさえずりが響き渡り、園庭に立てられたポールに〈山のテーブル〉の旗が気持ちよさそうにはためいています。童仙房の民宿で一夜を過ごした冷水さんが〈山のテーブル〉に到着すると、まずは一緒に朝食を。
 

今日は昨夜お世話になった仲西さんご家族を、昼食にお誘いしているのです。冷水さんが村の食材を使って料理に腕を振るい、〈山のテーブル〉がそれをお手伝い。「食」で文通をするような、そんな試みになんだかわくわくが高まります。

昨日森さんの畑からいただいてきた野菜。そして幸子さんと一緒に堀ったじゃがいも。あとは〈山のテーブル〉のキッチンにある調理用具や鹿肉、調味料などを確認すると、
うん、これだけあれば大丈夫」と冷水さん。

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朝食のあとは〈山のテーブル〉周辺を散策。ここ標高500mの山の上には昔ながらの清流が流れ、夏には蛍も見られます(実は前夜にも気の早い蛍が姿を見せてくれたのでした)。お世話になっているご近所さんの畑から、実山椒を少しばかりいただきました。

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まだ時間もあるので、車に乗ってお隣の野殿地区にある「うえだブルーベリー畑」さんを訪ねてみることに。ここの自慢は、農薬や化学肥料を使わず、土にこだわって育てたブルーベリー。かつては広大な茶畑だった場所に、約40年前から少しずつブルーベリーの木を植え、栽培本数を増やしてきたのだとか。今ではブルーベリーの摘み取りや食べ放題が楽しめる農園ということで、リピーターも多い人気スポットとなっています。

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まだ旬には少し早い時期でしたが、農園主の植田さんの案内で園内を巡っていると、食べ頃に熟した実もちらほら。スーパーで買えば100g400円はするブルーベリーが、ここで自分で摘み取れば150円!深い紫に熟した実を求めて、宝探し気分です。

冷水さんのきれいな台所仕事

〈山のテーブル〉に戻ると、いよいよランチの準備開始。リネンのエプロンを身につけた冷水さんは、きりり、やっぱりかっこいいのです。「何をつくるんですか?」と聞くと、いたずらっぽい笑みで「さあ~どうなるかなあ~」と言いながら、
 

野菜の味がしっかりしているから、それを生かしてシンプルに。余計な味つけはいらないと思うんです
ときっぱり。

 

手始めに前夜から水に浸けておいたムクナ豆の鍋を火にかけ、さっき摘んだ実山椒もぐらぐら煮立つお湯の中へ。そして冷水さんは野菜を洗い、包丁でさまざまに切っていきます。薄切りにするもの、千切りにするもの、みじん切りにするもの、ざく切りにするもの。手を動かしながら、味と食感のベストなバランスが頭の中ではっきりとイメージを結び始めているのでしょう。その働きぶりにはどこもバタついたところがなく、流れるように端正。

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冷水さんは調理の最中、よく手を使います。材料に味をからめて混ぜたり、ボウルから器に移したりするのも、菜箸やスプーンより手で。小気味よく働く細い手はまるで食材の声を感じ取っているよう。そして時々指先でボウルの中身をつまんで、そっと味見し、「うん」と小さくうなずくような表情が印象的です。
 

〈山のテーブル〉の對中も「冷水さんがここのキッチンで料理してくれているなんて!!」と感激の面持ちで、お手伝いに参加。村の猟師さんが仕留めてくれた鹿肉フィレの表面をさっと焼きつけ、たたきにします。

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伝統と新しい感性が出合い交じり合うテーブル

お昼になると、仲西幸子さんと娘夫妻の賢治さん・千賀子さんが山の上に到着。千賀子さんは〈山のテーブル〉のそばにある旧野殿童仙房小学校(現在は廃校となり、地域の障害学習センターとして活用されています)で先生をしていたことがあるそうで、昔を思い出して懐かしそうです。

みんなが席に着くと、キッチンからテーブルへ次々と料理が運ばれ、
いただきます!

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この日のメニュー
 

◆鹿肉フィレのたたき

ブルーベリーソースと、らっきょうと実山椒をみじん切りにしたレリッシュ
(洋風薬味)を添えて。

 

◆お米のポタージュ

前日に幸子さんから伺った思い出話(昔は畑仕事に茶粥を持って行き、沢の水で冷やして、喉の渇きをいやすと同時に空腹しのぎにした)にヒントを得た〈山のテーブル〉特製。ほんのりきかせたパセリ風味がミソです。

◆ズッキーニの塩もみサラダ

きゅうりの塩もみの西洋野菜版。緑と黄色の色の取り合わせがきれいです。
 

◆ベリー色の炒めサラダ

ビーツの葉と、酸味のあるスイスチャード、ブルーベリーをバターで炒め、仕上げにレモン汁で爽やかさを加えた鮮やかな深紅のサラダ。
 

◆じゃがいものナムル、花椒(ホアジャオ)風味

昨日堀ったじゃがいもを細く千切りにてさっと下茹で。ごま油に花椒を投入してじっくり熱した香味油が効いてます。
 

◆ムクナ豆のきなこ和え

ムクナ豆の甘煮を、ムクナ豆を挽いたきなこで和えて。前夜に幸子さん宅でいただいた、そら豆の甘煮からヒントを得たもの。
 

◆レタスとブルーベリーのサラダ

ドレッシングは、赤玉ねぎとパセリと酢とレモンとオリーブオイルと塩。あとはほんのちょっぴりの砂糖を隠し味に。
 

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途中、鹿肉を仕留めた猟師さんも立ち寄ってくれて、冷水さんと「はじめまして」。冷水さん、また村のジビエを使ってみたい!と猟師さんのお話に興味津々です。

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育てた人の顔が見える野菜。仕留めた人の顔が見えるジビエ。それら食材の声と響き合う、冷水さんの伸びやかな料理。山の上の風に吹かれながらの食事は、心にもからだにも心地よく時が過ぎていきます。
 

「料理には人があらわれる」とはよく言われることですが、冷水さんと過ごした2日間は、その言葉の意味を改めてかみしめるような時間となりました。

「インスピレーションの源は、旅」と話し、忙しい仕事の合間をぬって、まもなくイタリアとラトビアとスウェーデンを回る旅に出るのだと楽しそうに言っていた冷水さん。この村で過ごした記憶も、またふとした拍子に思い出してもらえますように。

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