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 村に息づく、木と農の文化を訪ねて【前篇】

 村域の約4分の3を山林が占める南山城村。単線の鉄道を走る電車は1時間に1本、ショッピングモールもコンビニもないけれど、ここには土があり水があり、森があり、それらが与えてくれる衣食住の文化や風景があります。土地の恵みをぐるぐる巡らせながら次につないでいく、美しい循環と再生のかたちを、やまびこ編集室が訪ねて歩きました。

 山の恵みを、燃料に変える

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「誰に教わったわけでもないですが、山で木を伐る仕事をするようになって40年近く経ちます」。

 

この日、私たちが訪ねたのは、田山地区に住む川西邦夫さん。春夏は茶農家として働き、

秋冬は自伐林家として、先祖から受け継いだ雑木林で木を伐る暮らしを送っています。
伐った木は主に薪として、近隣のなじみ客のもとへ運ばれていきます。


 

「薪にするのは、ナラやクヌギ。それも樹齢50年以上経ったものがいいです。ゆっくり燃えて、燠(おき)もよくもつのでね。それ以外の雑木は、キャンプファイヤーや飯盒炊さんに使ってもらっています。落葉樹は、晩秋から2月ぐらいまでの、木が休眠してる間が伐りどき。春が近づいてあたたかくなると、木が水を吸い上げ始めるので、乾燥しづらくなるんです」。

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柔和な笑顔で語る川西さん。黙って同じ姿で立っているように見える木の内部でも、季節ごとにいろんな変化が起きているんですね。

川西さんの作業場の一角には、同じ長さに切り揃えられた丸太が積み上げられ、そのそばに薪割りされたものが雨ざらしになっています。こうやって割ってから40~50日雨ざらしにしてアクを抜き、その後、屋根の下で約1年乾燥させて、やっと薪として出荷できるようになるそう。

 

「昔、薪が家庭の燃料やった頃は、どこでも自分たちで木を伐って、山の中で穴窯を仕立てて炭焼きをしてました。子どもの時分、うちの親父が炭焼きしてるのを見ながら遊んでたのを覚えてます。穴を掘って木を詰めて、入り口に鳥居型に石を立てて、上にむしろやなんかをかぶせて……。最後に見たのが60数年ぐらい前かなあ。
今でも“木ぃ伐ってんか”と頼まれてよその山へ行ったりすると、黒い跡が残ってるので、ああ炭焼きの窯があった
んやなとすぐわかりますよ」

木を伐る仕事は、段取りが肝心

山林に適度な間伐の手を入れることは、スムーズな植生サイクルを助けることにつながります。けれど最近では村でも木を伐る人が少なくなり、川西さんに山林の所有者から木を伐ってほしいという依頼が舞い込むこともちょくちょくあるそう。茶畑から手が離れる秋冬のあいだ、川西さんは毎日朝8時半には山に来て、夕暮れまで仕事をするといいます。たしかに78歳とは思えないほど、足取りも身のこなしも軽やか。そんな川西さんが木を伐るところを見せてもらうことにしました。

少量多品種が特長の森さんの畑は、ちょっとめずらしい新顔野菜もあちこちに。好奇心のおもむくままに、育ててみたい野菜の種を買い、植え付けて……ということを繰り返しているうちに、気づけば年間150~200もの品種を手がけるようになっていたとか。

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「木を伐ろうと思ったら、その木の周辺の下草や小さい樹を刈り取って、木が倒れるスペースを確保します。そうじゃないと玉切りや枝払いもでけへんからね。それから倒す方向を決めて、まず“受け口”をつくります」
 

伐採する木にはワイヤーがかけられ、倒したい方向に引っ張る準備ができています。キレのいい動作でチェーンソーのエンジンをかけ、“受け口”を切り取ると、川西さんは反対側に回り、“追い口”にチェーンソーの刃を入れていきます。やがて木がしなるように揺れ、川西さんの狙い通りに地面に倒れました。あとに残った切り株には、つんつんした霜柱のようなささくれが残っています。これは“ツル”といって木が倒れる時の支点になるもの。

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「狙い通りに倒れてくれると、やっぱり楽しいですよ。風がある時なんか、気をつけない

と大きい木は狙ったのと違う方に倒れたりすることもあるから……」
 

そう言いながら、手際よく倒木の枝打ちをしていく川西さん。その姿はなんだかとてもか

っこいいのです。

原木しいたけ栽培は、まず木を確保することから

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次に私たちは、原木しいたけの専業農家である山田一貴さんのもとへ。川西さんの雑木林から伐り出された木が、一部ここで栽培に使われていると聞いたからです。樹齢50年以上のものを使う薪と違って、原木しいたけの栽培に適しているのは、樹齢20~30年ぐらいの木。細胞分裂の盛んなこの時期の木は、しいたけを育む栄養がたっぷりなんだそうです。

2013年に田山地区にIターン移住してきた山田さんは愛知県出身。今では4つのハウスを管理し、1年で年間5000~6000本もの榾木(ほだぎ=しいたけ栽培に使われる原木のこと)に菌を植えて、しいたけの生育を見守っています。

 

「榾木は2年ぐらい使い回すので、休ませているやつも含めると、常時約15000本を所有しています。毎年5000~6000本の榾木を追加で確保するために、僕が自分で伐るのが約2000本、川西さんのが1000本ほど、あと残りはいろんな方から木を提供してもらっています。実際、一番大変なのが木を伐る山仕事ですね」

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もともと原木しいたけとは、春に森の雑木についた菌が、1 年以上かけて菌糸を伸ばして木の内部に充満し、秋の長雨にさらされた後にしいたけとなって自然発生したもの。
その自然のサイクルを人為的に再現するのが山田さんの仕事です。榾木に菌を打ち込んだら、温度管理しながら寝かせておき、しいたけが発生しそうなタイミングを見計らって、榾木ごと水槽にどぶんと浸けます。その後、水を切ってあたたかいハウスの中に移動させて待つことしばし。やがてしいたけがニョキニョキと姿をあらわします。

菌と向き合う、原木しいたけ栽培の奥深さ

「だいたい3月から5月にかけてが、菌を打ち込む作業のピーク。収穫までにだいたい1年ぐらいかかりますが、品種や条件によっては晩秋から採れるものもあります。菌が榾木に根付いてくれるかどうかが、いつも一番の気がかり。木の個体差とか温度、水のかかり具合などによって、菌の活着具合も少しずつ違いますが、菌がしっかり活着した“完熟榾木”は、木の形をした菌の塊だと思ってください」

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「木の形をした菌の塊」という表現に、思わず榾木を見る目も変わります。ごく微小な菌

が、木を養分にして育つたくましさ。そしてそれを活かして食料を得てきた昔の人の叡智

に思わずため息が出ます。山田さんも、もとはといえば菌の世界に魅せられて、学生時代

には土壌微生物などを研究。卒業後は青果市場や農業資材を扱う会社などで経験を積んだ

のち、しいたけ栽培の技術研修を受けて独立しました。原木の手に入りやすいところをあ

ちこち探す中で南山城村に出会い移住。栽培も安定した今、山田さんのしいたけは香り・

味ともに優秀と評判です。

 

「道の駅や直売所のほか、旅館やレストランにも買っていただいてて、それなりにいい評

価をいただいてるのでうれしいですね。ハウスのビニール張替などもあって、蓄えに回す

余裕はなくてその日暮らしみたいな感じですが(笑)」

 

ふと見ると、ハウスをあたためる薪ストーブの中で燃えているのは、役目を終えた榾木。
10回程浸水と発生を繰り返し、養分を使い果たした後は薪として利用。
無駄のない循環のかたちがありました。

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