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[やまびこ編集室]

京都府相楽郡南山城村童仙房三郷田47 旧野殿童仙房保育園 山のテーブル内 info@yamanotable.com

 冷水希三子さんと、村の食・人を訪ねて【前篇】

季節の素材を生かしたシンプルかつ美しい料理で人気を集める、料理家・フードコーディネーターの冷水希三子さん。「インスピレーションの源は、旅」という冷水さんを村にお招きし、食材の作り手や郷土料理を語り継ぐ人を訪ねた2日間は、私たちにとっても新たな出会いと発見がいっぱい。洗練された美意識の中に、どこか大地に根ざした力強さや骨太さを感じさせる冷水さんスタイルの秘密も、ちょっぴり見えた気がしました。

 冷水希三子さん(料理家)

 奈良県生まれ。飲食店や旅館での勤務を経て、フードコーディネーターとして独立。料理にまつわるコーディネート、スタイリング、レシピ制作を中心に、書籍、雑誌、広告などで多彩に活躍中。

 冷水希三子さん、初めての南山城村へようこそ

「こんにちはー」

初夏のある日、約束の場所に現れた冷水さんは、白いブラウスに青のスカートとストールをまとい、黒いリュックを背負った、飾り気のない少女のようないでたち。いつでも軽い手荷物だけで、すいっとどこへでも旅立ってしまえる、そんな身軽さを漂わせています。車に乗り込むと、窓の外に広がる農村風景を眺めながら、しばしおしゃべりを。
 

「私が育ったところも、けっこう田舎で。奈良の飛鳥なんですけどね。料理の仕事を始め

るきっかけは…。大阪の大学を卒業後、最初はアパレルに就職したんだけど、フードコーディネーターになりたくて、当時は大阪でそういう勉強ができるところがなかったから、東京の専門学校へ半年行って。さあこれからどうしようかなと思ってた矢先に、大阪の友人がお店を始めるから手伝って、と声をかけてくれて大阪に戻ったんです。カフェビストロのようなお店で、とくにレシピの指示などはなくて、“好きに作って”という感じで(笑)、カウンターのあるお店だったので、お客さんの応対もしながら作って出して。若かったからできたんだと思いますけど、今から考えるとよく任せてくれたなと思いますよね。集まるお客さんはクリエイターとかちょっとクセのある個性的な大人の方が多くて、そこで働いたのは2年ほどでしたけど、すごく楽しかったですよ」
 

その後はうつわ屋さんのスタッフ、奈良・吉野の隠れ家的旅館の厨房担当など、さまざまな経験を積み、30歳ごろからは徐々に雑誌などメディアでも料理とスタイリングを手掛けるようになった冷水さん。しかしやがて関西では雑誌の廃刊が相次ぎ、仕事仲間が次々と東京へと拠点を移し始めます。そんな矢先、思いがけず冷水さんも、「鎌倉で一軒家を借りたからシェアしない?」という友人の誘いに乗ることに。そこからは東京でも少しずつ活動の幅を広げ、その洗練スタイルでファンを増やしてきました。
 

「ひとつのところにいると飽きちゃうタイプなのかもしれませんね。料理を仕事にはしていても、自分でお店をしたいわけじゃないんだ、というのは思っていました」

夏野菜が豊かに実る畑へ

そんなことを話しながら、しばらく車を走らせたどりついたのが、田山地区にある森廣志さんのお宅。森さんは、自給自足の農生活を志して脱サラし、今は奈良・生駒にあるご自宅と、村にある畑つき古民家を行き来しながら、自然農で野菜を育てています。

山の斜面を活用した森さんの畑は、もとは一面竹藪に覆われていたそうで、ここでの農作業は、まず竹藪を取り払う開墾から始まりました。
そらぁ大変やったでえ」と森さん。
農業機械が入らない傾斜地のため、今も畑仕事はすべて手作業。
15kgぐらい痩せたな」と笑いますが、その目には生き生きとした光が宿り、日に灼けた笑顔はまるで少年のようです。

少量多品種が特長の森さんの畑は、ちょっとめずらしい新顔野菜もあちこちに。好奇心のおもむくままに、育ててみたい野菜の種を買い、植え付けて……ということを繰り返しているうちに、気づけば年間150~200もの品種を手がけるようになっていたとか。

森さんの案内で畑を歩きながら、旬を迎えたズッキーニやスイスチャード、パセリ、トマトなどをちょっとずついただいた私たち。森さんのお宅にお邪魔して、お昼にすることにしました。

冷水さんをイメージしたお弁当を、みんなで

壁も崩れかけていた古い民家を買い取り、大工さんの力を借りて修復したという森さんのお宅には、広い土間や立派な囲炉裏があり、大きな窓から一面の緑があふれんばかり。室内のあちこちに飾られた絵やオブジェに、森さんのセンスが垣間見えます。

囲炉裏をぐるりと囲んでいただくのは、〈山のテーブル〉特製のお弁当。素材本来の味を生かした料理が身上の冷水さんをイメージし、村で採れた野菜やおや鹿肉をシンプルな味付けで。素材の滋味をしっかり噛みしめて味わえるよう、それぞれのおかずはふた口ぐらいで食べられる少し大きめサイズにしています。
料理のプロに食べていただくということで、〈山のテーブル〉の料理番・對中はいつにも増して緊張の面持ち。

「ひとつひとつ丁寧に作られてて、すごく時間かかっただろうなって。私の好きな味付けです!」

と冷水さんの太鼓判をいただいて、ほっと安堵です。

お弁当を食べながらおしゃべりのさなか、そやけど、冷水って珍しい苗字やねと森さん。すると冷水さんはこんなことを話してくれました。
 

「この苗字は奈良でも珍しくて、九州がルーツらしいと聞いてます。昔の言葉で“甘味処”のような意味だったらしいんですね。旅の人にお茶を出して休んでもらう茶屋のような。奈良の下には熊野古道があるから、もしかしたら九州から船でやってきて、そのまま帰らなかったのかな、なんて想像したりして。でも自分の名前のルーツが、食べることや飲むことに関わってたとしたら、なんだかおもしろいですよね」
 

冷水さんが料理の道に導かれたのも、不思議な必然の力ゆえだったのでしょうか。さて、おなかもいっぱいになった一行は、森さんのお宅をおいとまし、次はお隣の高尾地区に向かいます。

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